星の数ほど

自分語り癖オタクの備忘録

愛と哀しみのシャーロック・ホームズ 感想

 

 

 

Remember:2019/10/06 Matinee

 

 

シャーロック・ホームズは、9歳の私にとって、ヒーローだった。相手を一見し瞬く間に職業などを言い当ててしまう観察力、ステッキで地面をたたいただけで下にトンネルが通っていると見抜いた洞察力、銀行の地下で犯人を取り押さえる俊敏な身体能力に、幼い私は感動した。「こんなにかっこいい人が物語の中に潜んでいたなんて!」と心の底から感銘を覚え、シリーズを手に取ったことが、読書の世界に足を踏み入れるきっかけとなった。


生涯の趣味ともいえる読書と出会わせてくれたシャーロック・ホームズ。さらに舞台鑑賞が趣味に加わわった今の私にとって、彼が主人公になるなら、今回の舞台はぜひとも足を運びたい作品だった。三谷幸喜作品を一度見てみたいと思っていたので、この機会に触れられることをとても楽しみにしていた。

 

劇場は初めて赴く森ノ宮ピロティホール。1階後方真ん中あたりという席運の良さ、推しの舞台で発揮してほしかった。新しく買った5*20の双眼鏡の効果も相まって、とても見やすかった。ちょうど二人くらいがレンズに収まって、表情も体の動きもよく見えて満足度が高かった。なにより明るい双眼鏡ってあんなに気持ちよく見れるんだって感動した。椅子は少しだけ疲れたけど、問題はなかった。

何より年齢層が!2.5みたいに若い女の子ばかりじゃなくて、老若男女様々!精神的オタクマウントのない世界、純粋に作品が楽しみで来てる人達。私自身、2.5ではない作品を見に行くのがほぼ1年ぶりで、落ち着いた雰囲気だったのが気持ちよかった。

開演前にパンフレットを購入して、時間もない中斜め読みだったけど、それでも手厚さが凄い。これはお値段以上です。結構な量のコメントがキャストそれぞれがっつり載っていてこれまた感動。終盤のイラスト集と対談と、内容盛りだくさんで観る前からテンション上がった。

 

 

さて、本編の感想です。

いつもどおりネタバレたくさん!まとまってない!

 

 

 

観終わって思ったのは、舞台として凄まじく良質だということ。とにかく面白すぎた。原作の予習復習が必要かと思っていたけど、基本的な登場人物を知っていれば(ホームズとワトソンしか知らない!っていう人でも)十分に楽しめる。原作未読者でも大丈夫。この人誰?って思ってもすぐに説明してくれる親切設計でした。

だがしかし、正典を知っている深きファンならニヤつかずにはいられない、細かなネタも散りばめられていて、それを発見するのがとても楽しかった。

 

【第一部】

 

冒頭の映像からシャーロッキアンばりの考察、ワトソンには婚姻歴があった説!(パンフレットに「齧ってたら知ってる」って書かれてましたが、知りませんでした......勉強不足。)年齢も、私は読んでてそこを気にしたことがなかったから結構新鮮な気持ちだった。

そこから幕があがって、現れたのは紛れもなく221B、彼らの部屋。とんでもない再現度に感動して、思わず涙がこぼれた。いろんな映像で見てきた221Bの部屋が、同じ空間の目の先に存在している。机に積まれた本も、実験の道具も、ヴァイオリンも、壁紙の模様も。本当に細かく作りこまれていて、夢にまで見た世界がそのまま広がっていて、高揚した。シャーロックのとある一日を覗いている感覚が観劇って感じがして、とても楽しかった。

 


第一の事件。私は『嘘つき村と正直村』って覚えてる、超有名なクイズ。一生懸命これを解いては「残念、違う」とシャーロックにバサバサきられて、すごすご戻っていくレストレードが可愛らしかった。ちょくちょく来るけど暇なのかな......?(というか今になって、第一の事件はこれではなく、ミスワトソンが指輪をなくしてやってきたことからの顛末なのではないかという気がしてきてしまった。)

そして立て続けに起こった第二の事件。依頼人はヴァイオレット。この名前も事件の詳細もなんとなく聞いたことあると思ってたけど、あとでパンフを確認したら、正典でヴァイオレットが出てきた4篇のストーリーをくっつけた展開だったらしい。馬車に乗ってグルグル回るあたりしか覚えてなかったな......。

実は第二の事件は、マイクロフトが糸を引いていたものだった。全てがお膳立て。ヴァイオレットは役者。何も知らないハドソンさんが、唯一私たちと同じ立場に立ってくれるのがありがたかった。

まさか兄が221Bに来ているなんて夢にも思わず、間違えた推理を連発しているシャーロック。最後にちゃんと真相にたどり着くあたりで、兄の出したクイズの答えに自分の力でたどり着いた刑事を見て、おそらくシャーロックは一度折れた。自分はただ兄の手のひらの上で転がされていただけだから。

 

 

【第一部・ほかに面白かったところなど】

 

マイク使ってたのかな?ってくらい普通の声がぽんぽん聞こえてきてびっくりした。マイクロフトの声がいい響きをしてて、かなり好きだった。

みんな演技めっちゃ細かいんだよ~~!シャーロックめちゃくちゃ可愛いし、ワトソンとは盟友って感じで、ちょっとミスワトソンに対して嫉妬して拗ねてるのも、言い方とか台詞回しがそのまますぎて違和感なさすぎた。歩き回り方、手の動かし方、話の聞き方、全部そう。ファンが求めているシャーロックがそこに現れてた。

ワトソンはもう佐藤二朗でよかったよ。ほんとに。コメディとして味を出すのに彼じゃないとダメだわ。ちゃんとしてるのに面白いってすごいんだよな。大根芝居してる演技がめちゃくちゃ上手いの、本当にすごい。


シャーロックお気に入りの藤の椅子。幕が上がる前はピアノと正対するように、テーブルとともにポツンと置いてある。その奥に221Bが広がってるのもめちゃくちゃ好き。彼は器用に三角座りできるけど、ワトソンは体が大きいからできない!やろうと思ってもズルズル足が落ちるのが面白かった。

あと謎解きシーンで、ミスワトソン!って言われた時に、クローゼットに隠れてる兄が(そろそろかな)って出てきちゃって(はー!?まだなのか!!!)ってそーーーっと戻っていった場面がめちゃくちゃ可愛かった。あのクローゼット狭そうだし、早く出たいよね......笑。
ヴァイオレットの「踊る靴紐.....」がナイスすぎて。とても嬉しかった。踊る人形とまだらの紐ですよね。

あと音楽がめちゃくちゃいい。物語に寄り添ってるのがすごくわかるし、素敵。照明も、ヴァイオレットが追われるところで影がたくさん出てくるのが緊張感出てドキドキした。

 

 

【第二部】

 

まだ幕間だったらしいけど、「素敵なショウをお楽しみください」って出たの笑った!手拍子の中、歌い踊るワトソン夫妻が可愛かった。とくにワトソンが、特別上手くもないからこその微笑ましさというのがあって、それがすごくよかった。終わりにマイク回収してちょっとずつ下がっていくハドソンさんも可愛かったな。あの、はいだしょうことミュージカルばりばりの柿澤さんに歌わせないってのもいいよなぁ。


第三の、スコーン紛失事件。

大したことない事件だからと、あまり興味を示さないシャーロック。マイクロフトが文句言いながらも楽しみにしていたのが可愛い。状況から誰が犯人だと思うか、ひとりひとりが推理を披露していって「ほら、ホームズも」ってノせるのが上手いな~と思った。さすがワトソン、分かってる。ここでさらっとイレギュラーズが出てきたのも嬉しかった。彼らのほうが役に立つ!ってシャーロックのセリフが聞けたのも。(帽子の化粧箱と同じ大きさのスコーン、もはやクッキーなのでは......?笑)

 

一番面白いなと思った第四の事件。

シャーロックの進退を賭けたカードゲーム・ランターン。ポーカーのルールを知らなかったけど、さらっと説明してくれたからよかった。自分の帽子の色を当てるゲームの複雑verですよね。あのカード、ランダムに見えてランダムに配ってないことに気づいて感動した(ちゃんと配らないと辻褄が合わなくなっちゃうからね)。シャーロックが自分のカードを見抜くまでキラキラのカードなのめちゃくちゃよかったし、周りの会話から見抜いていく過程が、映像で分かりやすく表現されてたのもかっこよかった。除外していくカードをすらすら読み上げていくのが特にかっこいい。兄弟の勝負なのに私たちは必要なのか、という女性陣。周りを巻き込んで質問やリアクションを見ることでヒントがたくさん得られるし、シャーロックは大勢で楽しむとともに、自らの推理の精度を高めたかったんだろう。一見役に立たなさそうなレストレードの反応すら利用できたんだから。

 

馬の話が出てきた時に、BBCシャーロックの犬の赤ひげが頭をよぎって、ゾッとした。飼っていた動物のことを覚えている/いないという話題。

兄は弟をよく見ている。細かいところから気が付くやつだということも、しかし後腐れなくさらっと物を忘れてしまうということも。
弟は馬を買ってもらえて、私はもらえなかった。自由に生きられる弟、跡取りとしてプレッシャーを感じる兄。弟には才能がある。兄はそれを受け入れられない。もしかしたら兄の頭の良さは、努力で勝ち取ったものなのかもしれない。今になって弟の揚げ足とってきゃっきゃしてたけど、あれは笑いどころでありながら、兄の苦しい胸の内が少し漏れたのかもしれないと思うと、ちょっと見る目も変わるというか。

 

全てが丸く収まった、かのように思えた。

夫婦の関係は冷めきっている。確かにシャーロックの言う通り、思い返してみれば不自然な点はあった。幕間で仲良く歌って踊ってた、ハイドパークなんて何年前の思い出だ?と。よく見たらあの振り付けも、多分ワトソンがそばにいてほしくてミセスの方に寄っていった振り付けが多かった気がして、かなしい。

医者は体裁を気にする。しかしランターンでも裏切られたワトソン。そこから奥さんに恨みを持って、自殺を他殺に見せようとしてたなんて思ってなかった。彼女は彼女で、堂々と研修に行くと嘘ついて浮気旅行するのもすごいし、面白みがない平凡な人がシャーロックにぴったり!みたいなことも言ってた気がするけど、あれすら本心だったのかもしれないと思うと寒気がするな......。

相談してほしかった、一緒に悩むことくらいはできる。これが深い友情でなくてなんというのだろう。私の好きなシャーロックとワトソンの関係性はここにあった。この年齢の二人だからこそ築かれるもの。お互いが優しく寄り添いあっているところに、グレグスンから依頼が。ここで緋色の研究につながるのがもう、最高すぎてめちゃくちゃテンション上がった。真っ黒の外套に身を包み、颯爽とその裾を翻して221Bを出たシャーロック、とても格好良かったです。 

 

 

【ほかの感想】

 

ところどころ、ちょっとずつピアノを使うシャーロックがめちゃくちゃ好き。よく見たらピアノのところまで床が続いてて、背景でありながら地続きだと思わせるのが絶妙だった。シャーロックが軽く音を鳴らしたり、感情に任せてでたらめにダンと弾く、そこがまた音楽的にもちょうど良くて、全てが心地よかった。

 

シャーロック。床をころげまわり、テーブルに足を置き、バイオリンをポンポン鳴らし、ボウを指示棒のように粗末に扱う。椅子の背もたれに半分顔をうずめて叫ぶ。窓前のスペースに飛び乗り、ソファに土足で乗り降り!クルクル動き回って節操がないけど、観察眼はピカイチ。推理はご挨拶。なんというリスペクト。私たちは何度その姿を見てきたことか!若かりしシャーロックもきちんとそのままだった!

赤いガウンも、外套も、サスペンダー姿も、かっこいいところがたくさんあって、ファンにはたまらないんだろうなぁと思ってた。(推しもあんな格好してほしい。)

ランターンで「好きなタイプは?」という質問に答えるシャーロックが最高。口ひげが生えている。オチ!しばらくテレテレするワトソンもまた可愛い。細かいところだと呼び方が「ワトスン」寄りだったのがグッときた。

ヴァイオレットに頬キスされてパイプをふぉ....ふぉ.....と規則正しく(おそらく無意識に)ふかしてるシャーロックも可愛かったなぁ。やっぱり女の人苦手なんだよな。ハドソンさんの目は見るけど他の女性二人の目は見ないし。この座組にアイリーン・アドラーが入ったらどうなるのかも見てみたいなぁ。シャーロック翻弄されて!笑

 

スペア、替えの効く人物。

マイクロフトのスペア、シャーロック。

役のスペア、ヴァイオレット。これが正典で幾人も登場する人物の一人であることをほのめかしているようで、なんともいえない皮肉のように感じる。

あとは強いていえば、グレグスンのスペアになることを怖がるレストレード、というのもあるかな?

 

カテコではマイクロフトとかワトソン、シャーロックが客席に投げキスしたりしなかったり、とっても可愛かったです。挨拶あるかと思ったけど特に何もなくて、そこは残念だった。

  

 

 

【まとめ】 

 

ほんとうに久しぶりにこんなにすっきりした舞台を見ることができて、とても幸せでした。一回見ただけでも満足感は十分、でも二回三回、細かいところまで見たい!と思わせる力がある。 いちシャーロックファンとして、心の底から楽しめる舞台だった。見終わってから「あぁ、これは東京まで見に行く価値のある舞台だったな」と思い、チケット取らなかったことを後悔してる。(福岡......福岡は無理だ......。)

舞台を見ることに何の心配もいらない、安心してみられる作品。欲しいと思っていた納得感を得ることができて、いい舞台ってこういうことをいうんだなぁと再確認できた。

 

刀ステや刀ミュを見てる時って、物語を掴まないと!という思いに必死になって、頭をフル回転させないといけないから、観劇に力が入る。だから見たら体力持っていかれて、かなり疲れる。
でもこの舞台は、疲れるどころか元気をもらった気がする。全体的にシリアスじゃなかったから、というのが大きいのかもしれないけど、リラックスして見られて、するすると物語が自分の中に入ってきて分かりやすくて、にもかかわらず余韻も考える間も与えてくれる。素晴らしい舞台だった。明快なストーリーの中に人間関係を、バックボーンを佇ませる。説明もくどくない、緩急もバランスもいい。私が見たいのはこんな舞台だ。過不足なくぴったりとハマる、綺麗に出来上がったパズルのような舞台。

 

 

愛と哀しみのシャーロック・ホームズ、副題のスペア。

シャーロックにとって、ワトソンの代わりはいないというメッセージを、私は受け取りました。

本当にいい舞台だった!再演か戯曲か.....なにとぞよろしくお願いします......!